明良

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明良

…夢を見た。 あの日の夢。 夕暮れの教室で独り泣いていたあいつ。 いつも無愛想なあいつが顔を覆って静かに泣いていた。 「どうしたの?」 声を掛けるとハッと顔を上げて、袖口で涙を拭った。 「なんでもない。」 そう言ったあいつはいつもの無愛想な奴に戻っていた。 「泣いてたじゃん、今。」 正面の椅子に座って顔を覗くと、あいつは顔を背けた。 「なんでもないから、ほっといて。」 俺はなんだか放っておけなくて、ポケットからくしゃくしゃのハンカチを取り出して差し出した。 「きったねーけど、使えば?」 あいつはそれを親指と人差し指で摘むと 「ホントだ、汚い。」 って笑った。 なんだ、笑うと可愛いんじゃん。
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