74人が本棚に入れています
本棚に追加
決して裕福ではない海辺の村で執り行われた結婚式は、派手では到底なく、とても質素なものだったが、それでも結は充分だった。大好きな圭佑が隣にいる。これからは結にとっても親となる彼の両親も、八緒も、同じように微笑んでふたりを見ている。村の人たちもみんな集まり、圭佑と結を祝福してくれていた。
普段は着ることのないほど、汚れのない真っ白な生地に赤い刺繍が施されたきれいな白無垢。それは八緒が長い時間をかけて一針一針、丁寧に縫ってくれたものだった。
「おめでとう」
「お幸せに」
周りからかけられるたくさんの祝福の言葉に、結の心は着物のように真っ白な幸せに染まっていく。
圭佑が口にしたあとに彼から手渡され、初めて呑んだお酒の苦味も、思わず顔をしかめた結を見ている圭佑の笑顔も、全てが暖かく胸を包んでくれた。
「好きだよ、結。俺は幸せだ。これからはふたりでもっと幸せになろうな」
隣で微笑む圭佑に、結も笑顔で答える。
「わたしも、大好き。あのね、圭ちゃん。わたし、……わたしもね、すごく幸せだよ。これからも、よろしくおねがいします」
初めて塗った口紅のように頬を赤く染めて言った結を、圭佑も嬉しそうに見ていた。
こうして幸せな時間はあっという間に過ぎていく。それでも日が落ち、辺りが暗闇に包まれても皆の賑わいは静まることはなく続いた。酒の入った男たちは酔いに顔を赤くし、女たちは結の恋心に耳を傾け、次の花嫁は誰になるだろうかと噂話に花を咲かせた。
結は周りの女たちから散々に圭佑との馴れ初めを聞かれ、これからの新婚生活への期待や注意なんかを聞かされて、すっかり舞い上がってしまっていた。お酒は式の折りの一口しか呑んでいないのに、まるで本当に酔ってしまったかのように顔は真っ赤になり、頭はぽやぽやと鈍くなっている。
空気に酔ってしまったかな、とぼんやり働く頭で考え、結は酔いを冷まそうとひとり外に出た。
最初のコメントを投稿しよう!