昭和十三年

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昭和十三年

「結ちゃんのお母さんって綺麗だよね」    友だちに言われ、女の子は嬉しそうに笑っている。頬が赤く染まっているのは走り回って遊んでいたからだけではないだろう。   「えへへ。ありがとっ」    まるで自分が誉められたように照れながら答えていた。そんなやりとりに、もう一人そばにいた子供も同意する。   「ほーんと。あたしのお母さんなんていっつも疲れたって言ってるしすぐ怒ってくるしさぁ。結ちゃんのお母さんはそんなことないでしょ? 羨ましいな」    友人の拗ねたような言い方に、結と呼ばれた女の子は少し困った顔をしながらも嬉しくてたまらないように手をぱたぱたと揺らしてもう一度笑った。   「だけど、美奈ちゃんと加代ちゃんのお母さんだってすごいじゃない。お母さん、言ってたよ。みんなすごぉく働き者だって。とっても、えと……何だっけ……。そう、素晴らしいことなんだって」    それは数年前、結がこの村にやって来てすぐのころだった。今と同じように母親のことを綺麗だと言われ、家に帰って嬉しくて母親、八緒(やお)に報告した。   『そうなの……。でもね、結。そんなことよりもっと大切なことがあるのよ。ここの人たちはみんな、毎日をとても懸命に生きてる。よく働いていつも笑っていることのできる人たちだわ。それは何より素晴らしいことよ。外見の美しさなんかよりもね』    言われた頃はまだ幼くて、意味もよく分かっていなかった。話している顔が少し寂しそうなことにも気付かなかった。ただ、誉められたことを八緒がそう喜んではいない様子に首を傾げていた。     「まぁ確かに働き者だと思うけどね。だからあたし、もっと構ってほしいのになぁ。だからやっぱり、結ちゃんのお母さんが羨ましい」    繰り返して言われ、結はいよいよ返す言葉も見付からずにただ苦笑するだけだった。  
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