昭和十三年

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 夕暮れ迫る涼しい風の中、子供たちは茜色に染まっていく空の色も気にせずにはしゃぎ続けていた。といってもただ遊んでいるのではない。海の浅瀬で土を掘っては貝を拾い、てこてこと小さく動く蟹や波に揺れる海藻を捕まえているのだった。うんと幼いころからそうしてきた子供たちは、仕事というべきそれらのことを遊びと捉え、楽しみながらやっていく術を自然と身に着けていた。今も笑い声とともに貝を見付けては喜び、蟹を捕まえては宙に掲げるようにして見せびらかしていた。     「ゆいー」    いよいよ辺りが暗くなり、一番星がかすかに見えるようになったころ、浜辺の先から軽い声が聞こえてきた。 「あっ、お母さんだ」    小さく届く声も、結は耳聡く捉える。ついさっきまでちょこまかと逃げ回る蟹に夢中になっていたのに、その声が聞こえた途端にすっかり忘れてしまったかのようにぱっと顔を上げて走り出す。   「お母さん」    砂を蹴って走り、最後は飛ぶほどの勢いで抱きついてきた結を、八緒は嬉しそうに見下ろしている。   「いっぱい遊んだ? さぁ、帰ろっか」 「うん!」    手を繋ぎ、跳ねるような足元で去っていく。一度、振り返ると羨ましそうな視線を向けている友人ふたりにあっさりと手を振った。   「じゃあね。美奈ちゃん、加代ちゃん。また明日」    満面の笑みを浮かべている結に、友人ふたりは苦笑混じりに手を振り返して自分たちもそろそろ帰ろうかと浜辺をあとにした。
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