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駅員さんが顔を出した。
「松戸? お嬢ちゃん1人で行くの?」
「ううん。和哉くん……弟と2人です。弟はまだ幼稚園だからお金要らないんですよね?」
「うん。でも松戸は凄く遠いよ。お母さんとかお父さんは?」
「お父さんに会いに行くんです」
「そうなんだ……ちょっと待っててね」
駅員さんは奥へ行ってしまった。しばらく待っているとおじいさんの駅員さんがにこにこして駅員室から出てきた。
「松戸は遠いから大人と一緒に行こうね。今からお家の人に迎えに来てもらうからこっちの部屋で待とうね」
おじいさんの駅員さんは私の背中を押して部屋の中に入れようとした。
「逃げるよ、和哉くん!」
私は和哉くんの手をしっかり握りしめ駅を飛び出した。「待ちなさい」と後ろから声がしたが無視して走った。追いつかれては困る。私は子どもしか知らない細い道や公園を突っ切り逃げた。お寺の縁の下や河原の藪の中も通った。蜘蛛の巣やくっつく草が体中に付いた。でも大人の足は早い。もっと遠くに逃げなくちゃ……。
「聖子ちゃん、疲れたよ」
和哉くんが立ち止まった。
「もう歩けない、疲れた」
「逃げなきゃ捕まっちゃうよ」
「何で? 悪い事したの?」
和哉くんにそういわれ、私は冷静さを取り戻した。悪い事なんて何もしてない。逃げる必要なんてない。
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