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 菓子より甘い、暁生の口説き文句。  それがもし真実なのだとしたら。  どうしよう、とドキドキしていた優はそのことに気づいた翌日、客の女から笑顔でラブレターを受けとる暁生を見かけて自分の愚かな妄想をすぐさま脳内からかき消した。  暁生は優しいのだ。  そしてその優しさは笑顔と同じように、優ひとりに向けられるものじゃない。  その女と二人きりのときだって、暁生は甘い言葉で彼女を口説くかもしれない。  誰かと二人きりの暁生を見たことがない優には、いくら想像しても真実はわからない。  見つめてくる瞳に本気っぽさが混じっているからって、期待なんかしてはいけない。  自分ひとりがこんな特別な扱いを受けているという保証はどこにもないのだから。  幼なじみでずっと一緒の時間を過ごしてきたけれど、優には暁生の真意が読めなかった。  弱虫で自分の後ろに隠れていたころは、素直でわかりやすくてかわいかったのに、と思う。  だけど今や食えない男と化した暁生に、いつも笑顔でいろ、とうながしたのは優自身だ。  自分でそう言ったくせに、今の優は大安売りで笑顔をばらまく暁生に苛ついている。
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