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 秋深まる、肌寒い日曜の午前。  そろって風邪を引いた両親の代理で、急遽姉の見合いに同席することになった優は、主役の早紀と二人、ホテルの喫茶室で見合い相手と対面していた。 「弟さんですか」  菱川、と名乗った三十を少し過ぎたばかりの男は、正面にいる見合い相手の早紀にではなく、なぜか斜向かいに座る優にばかり話しかけてきた。  菱川のほうの付き添いも急遽来れなくなったようで、二人でやって来た早紀と優に気を使っているのだろう。  気合の入った和装姿の早紀から事前に、今日の相手はエリートなのだと聞いていた。  大手の冷凍食品会社オカベフーズ大阪支店の営業成績を上げるため、本社から引き抜かれてやって来たのだという。  無駄のない動作に乱れのない髪や衣服、表情筋を動かして作りましたといった感じの完璧な笑顔。  整った身なりと挙措はいかにもできる営業マンという感じ。 「痛てっ」 「どうされました?」 「いや、なんでも」  隣で笑顔を崩さない早紀が、テーブルの下でふくらはぎを蹴ってくる。  会話をしてるのはさっきからずっと菱川と優の二人だけだった。  邪魔だからいい加減、席を外せと言いたいらしい。 「あの俺、そろそろ帰ります。あとは若いお二人で」  自分のほうが若いけど、とりあえずのセリフを言ってみる。 「まだいいじゃないですか。今日は弟さんも一緒にこのあと食事に行きましょう」 「いやあのー……、俺は仕事があるんで」  日曜は定休日だが、早紀の帰れオーラがものすごいので、優はオレンジジュースを一気に飲み干して立ち上がった。 「ほんなら、ごゆっくり」  早紀の恐ろしい笑顔の追い立てに、優は席を離れて菱川に頭を下げた。  口をひらいてなにか言おうとした菱川を振りきって、優は早紀の目から発される帰れビームに背中を押されるように、そそくさとホテルをあとにした。
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