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帰り道、駅から自宅までの道をひとりで歩いていたら、暁生とばったり会ってしまった。
「優どこ行ってたん! そんなおめかしして」
犬っころのように目を輝かせて駆け寄って来るなり、珍しくオールバックにセットした前髪に触れようとする。
優が反射的にその手をはたき落とすと、暁生は嬉しそうに笑いながら痛がった。
「朝っぱらから見合いや」
「見合いぃー!?」
静かな休日の住宅街に笑顔から一転、悲愴な顔になった暁生の叫びが響きわたる。
まだなにか叫びたそうな口を手で塞ぐと、そのまま優は暁生を連れて目立たぬ木陰に移動した。
「アホか、俺やない。姉ちゃんの付き添いや」
「ああなんや、早紀ちゃんかぁ」
「ちょっと考えりゃわかるやろ」
「優の言葉が足りんから悪いんやで」
通りがかった老夫婦にそろって会釈しながらも、くだらない応酬はしばらく続いた。
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