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「気ぃつけなあかんで。おまえは口は悪いけどお人よしやし、自分が思ってる以上にかわいらしいんやから」
触れられて赤くなった優の顔は、熱が放出して汗をかき、体温が下がっていた。
暁生の乾いたぬくい手で触れられ続けると、自分のじめじめした肌がいやらしい煩悩にまみれているみたいでいたたまれない。
額から頬へ、さらさらした手の感触が、しっとり湿った肌を滑り降りてゆく。
優は目を伏せて触れられる快感をやり過ごし、なんとか笑って見せた。
「なにに気ぃつけるねん。相変わらずくだらん口説き文句ばっかり吐きやがって。俺のことおちょくるんも、たいがいにせぇ」
話は終わり、と頬を包む手を払って暁生を見上げると、なぜか悲しげな目を向けてくる。
「な、なんやねん」
「相変わらず伝わらんなぁ、思て」
なにが、と聞き返そうとしてとどまる。
返ってくる答えは知ってる。ぼくの愛、だ。
でもその愛が本物じゃないことも優にはわかっている。
「帰る」
照れ隠しに不機嫌に言い放ち、暁生に背を向ける。
どこかに出かけでもするのだろう、暁生がついてくる気配はなかった。
ただ離れて数秒後、ほんまに気ぃつけや、と変に気持ちのこもった言葉が優の耳に届いた。
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