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「ぼくは優ひとすじやから」  期待に満ちた常連客たちの顔を見まわし、暁生はのんびりした顔で笑った。 「だまれ、ヘラオ」  自分がなにか言わないと、と思ってつっこんだ優の声は、いつも以上に刺々しくなった。 「ウチも弟同然のアッキーなんかごめんやわ」  早紀が大仰に手を振ると、一瞬の静寂のあと、場は大きな笑いに包まれた。 「美人の弟持つと、苦労すんなぁ」 「なんでウチが振られたみたいになってんのよ!」  自分の名前が出てきた途端、真面目な結婚話から笑い話へ、場の空気は一変した。  優は大笑いする瀬戸一の常連客たちに混じって、ひとり自虐的に笑った。  しとしとと秋雨の降る夜のこと。  優が父親と二人で瀬戸一に明日卸す分のおぼろ昆布を削っていたところ、家のチャイムが鳴った。 「こんばんは。夜分遅くにすみません」 「えっと……、菱、川さん?」  菱川は一度頭を下げると、玄関口で驚いて目を見ひらいている優に向けてわざとらしい笑顔を作ってみせた。
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