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知り合いのいない街にやって来たばかりで、仕事もまだ慣れないことだろう。そんな中、早々に恋心を打ち砕かれたのは想像する以上にダメージが大きいのかもしれない。
必死に訴えかけてくる菱川の表情を見て、優は気の毒になっていった。
「最後に、この話は優さんと私だけの秘密にしていただけませんか」
「ええ、ええ、それはもちろん」
早紀が家族に隠しているというのだから、優が話してしまったら菱川が秘密をばらした悪者になってしまう。
秘密の約束を交わして話を終え、店を出ると雨は止んでいた。
スマホを取り出してラインの交換をすると、近々連絡しますね、と菱川は嬉しそうに笑って去っていった。
水を吸って黒光りする夜の舗道を軽やかな足取りで遠ざかっていく後ろ姿を、優は同情の視線で見送った。
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