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「きつねと天ぷら、おまたせー。今日もハニーのために、いちばん大きいおあげさん選んで入れたからね」  鉢をどん、とテーブルに置くと、暁生は空になった温かい手で優の頭を撫でた。 「さわるな。しばくぞ、ヘラオ」 「ヘラオて言わんといて~」  ヘラオというのは、優が暁生につけたあだ名だ。  いつでも誰にでも、ヘラヘラしている暁生だから、ヘラオ。  でも、初対面の女性を一発でとりこにすると噂のその笑顔を八方美人だとあてこすって優がつけたあだ名も、本人は一応嫌がって見せてはいるが、実際のところはひとつもこたえていない。  暁生と優が地元で名物カップルと認識されているのは、その当人である暁生がしょっちゅう優に構ってはふざけて愛を囁いているせいだった。  優の耳を覆うつやめく黒髪を指にくるくる巻きつけて、かわええなぁ、と呟いたかと思うと、暁生はその小さな耳に唇を寄せ、店内にいる誰もが聞き飽きてるセリフを口にする。 「でもハニーのそんな口の悪いとこも、好きやで」 「よっ! お二人さん」  隣の席から絶妙なタイミングでしょうもない合いの手が入った。  優はそちらをにらみつけると思いきり舌打ちを飛ばし、髪に触れる暁生の手を払いのけて、割り箸を力まかせにパキッと二つに割った。
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