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「伸びてまうから、はよ食べ。お腹空いてるから、機嫌悪いんやで」  違う。おまえがヘラヘラ笑いながらいらんことばっかり言うから機嫌が悪いんや、と言ってやりたかったが、腹が減っていたのも事実なので優はどんぶり鉢を持ちあげ、口にしかけた文句をうどんのつゆと一緒にぐぐっとあおった。  薄味のだしとほんのりとけたおぼろ昆布の塩味がいい具合に混ざり合う。  真っ白な打ちたてのうどんはつるつると喉をすべって、最後に残しておいただしの染みこんだ大好きなおあげを食べ終わるころには、暁生の言ったとおり、優の機嫌はすっかりよくなっていた。  ほっと息をついて顔を上げると、前に座る早紀がテーブルに体を乗りだしてきて優の耳元で囁く。 「ちょっとほら、あれ見て」  背後を指さされ、優は何事かと振り返った。  レジカウンターの前に見たことのない若い女性が二人立っている。  彼女たちは暁生に案内されて、窓際のテーブル席につこうとしていた。  瀬戸一はテレビや雑誌で紹介されたことはないのだが、どこから情報を嗅ぎつけてくるのか、ときどき明らかに暁生目当てと思わしき女性客が、常連客しかいない時間帯に紛れこんでくることがある。 「うわぁ、二人とも目がハートや」  女性のほうを観察してるらしい早紀の呟きを聞きながら、優は注文をとる暁生の立ち姿をじっと見つめた。
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