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背が高くて手足が長く、全身にほどよく筋肉がついている。
犬っぽい黒目がちなたれ目と、凛々しい眉がバランスよく配置された、こんがり小麦色の健康的な顔立ち。
男なら誰もがうらやむ肉体美に、母性本能をくすぐる爽やかな顔が乗っかっている。
繁華街を歩けば十分以内にスカウトがやってくるようないい男が、下町のうどん屋で看板息子をやっているというギャップが、どこからか噂を呼ぶのかもしれない。
なにがハニーや。
好きとか愛してるとか、口から出まかせばっかり抜かしやがって。誰彼なしに笑顔振りまく女たらしのくせに。
心の中で恨み言を呟きながらじっと見つめ続けていると、優の呪いのこもった視線に気づいた暁生が、女性たちとの会話の途中に振り返ってウインクを寄こしてきた。
「うわぁ」
さすが博愛主義者。
暁生は背中にも目がついているらしかった。
女性と会話しながらも優の視線を見逃さない。八方美人もここまで極めていると、悪口を言う気も失せて拍手を送りたくなってくる。
「俺、配達残ってるし、さきに帰るわ」
優はため息をついて立ち上がった。
「え、ちょー待ってよ」
「ゆっくり食べててええよ」
早紀にそう言うと、テーブルに小銭を置いて出口に向かう。
引き戸に手をかけたところで、女性の注文をとり終えた暁生に、後ろから二の腕をつかまれた。
「なんやねん、離せボケ」
「昨日の晩、優のために小豆炊いてん。今日の夜ぜんざいにして持っていくからね」
「あー、そらどうも」
「愛してるでー、ハニー」
帰り際に告げられる暁生のお決まりのセリフに、今日も店内の常連客からひやかしの声が投げられる。
笑顔で手を振る食えない色男にごちそうさん、と告げて店を出ると、優は秋晴れのやわらかな日差しに照らされた昆布屋までの小道をひとり、脱力しながら歩いた。
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