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「おまえのことが、好きやからに決まってるやろ」
かすれた声が情けなく響いたけど、暁生は気にしたふうじゃなかった。
「そっかぁ」
「そうや、悪いか」
そっと顔を上げて、暁生をにらみつける。
「悪くない悪くない」
うんうんうなずく暁生が本当に幸せそうに笑うから、優の強張っていた顔の筋肉はふにゃりと緩み、思わずつられて笑っていた。
しばらく二人でヘラヘラヘラオになっていたら。
「あのな、おまえの唇の端っこに、パイがついてるねんけど」
「どこよ?」
右か左か。
パイつけたまま好きとか言うてたなんて間抜けすぎる。
さっさと取ろうと手を顔に近づけると、その手首をつかまれる。
「なにすんねん」
「ぼくが取ってもええ?」
「ええけど。なんやねんニヤニヤして気色悪い」
「手以外で、取ってもええ?」
ああ、そういうこと。
頬を染め、期待に満ちあふれた目をした暁生を見て合点がいった。
っていうか、そもそも口にパイなんかついてるんかいな。
「ええよ」
「え、ええの?」
「うん」
「うわあぁ。ほんまかぁ!」
さっき一回したくせに、どうしてそんなに感動するのか。
「ええから、はよせー」
この会話が恥ずかしすぎてさっさと終わらせようと、デレデレ顔の暁生の胸ぐらをつかんで引っぱったら、間近で目が合う。
垂れ下がる目の真ん中、自分を見つめる瞳の熱っぽさに、優は求められていると実感した。
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