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近づいてきた唇と、唇が触れ合う。
しっとりした感触を知覚するころには、自然と目が閉じていた。
胸がトクトク鳴って、つむった目の周りがじんわり熱を持つ。
本当にパイがついていたのか、口の端をぺろりと舌で舐められて首がすくんだ。
「優」
唇を離した暁生が愛おしそうに名前を呼ぶ。
「なあ、もうちょっとしてもええ?」
「いちいち聞くな。おまえってちょっと強引さに欠ける」
好き好き言うばっかりでひとつも手を出してこない。
だから本気だと気づかれないのだ。
照れ隠しに文句を言うと、暁生は犬みたいに濡れた黒目をキラリと輝かせた。
「優は強引なほうが、好きなんやぁ!」
夜に大声を出す暁生に、し、と人差し指を立てる。
寝ているはずの暁生の両親の寝室とは階が違って離れているが、それでも聞こえないかと不安になるような音量だった。
「じゃあぼく、これからはもっと強引な男になるね」
「いや、待て、そういう意味じゃな、く……って」
高々といらぬ宣言をした口に、再び吸いつかれた。
はむはむと下唇を唇で挟まれながら髪を撫でられる。
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