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 翌日、瀬戸一の店内では大事件が起きた。  優より遅れてやって来る予定だった早紀が、引き戸をひらくと同時に怒声を上げる。 「おのれ~、さっさと入らんかい!」 「何事や!」 「どないした!」  あきらかに心配したふうじゃなく、おもしろいことが起こりそうだという好奇心丸出しの声を上げて、常連客が一斉に席を立つ。  全開になった扉の外から、早紀に尻を蹴られたスーツ姿の男がよたよたと店内に入ってきた。 「菱川さん!」  優が声をかけると、菱川はひどく気まずそうに笑って見せた。  誰や、と口々に囁かれる声に、姉ちゃんの見合い相手やった人、と優は簡潔に情報を与えた。 「いったいどないしたんですか」 「どないしたもこないしたもないわ」  優の問いかけに答えたのは怯える菱川でなく、鬼の形相の早紀だった。 「こいつ、うちの家、盗撮しとったんやで」 「盗撮ぅー?!」  みんなが声をハモらせて、一斉に菱川に注目する。  ここ最近めっきり冷えこんできたというのに、菱川は顔中に汗をだらだらかいてハンカチでパタパタはたいている。 「盗撮って、どういうことですか?」  日常にあってはいけない不穏な単語を耳にして、優は眉をひそめながら菱川をじっと見つめた。
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