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「なんでこんなこと、したんですか」  そっと近づいて尋ねると、菱川はがくんと肩を落としてもそもそした声で話しだした。 「実は、私がお見合いで一目惚れしたのは、早紀さんでなく同伴で来られた優さんでして」 「そうやねん。この人、見合い中ずっと優の話ばっかり。そんで見合い話はなくなったのに、優が夜中に菱川さんと電話で話してる声が聞こえてきて、なんかおかしなことになってるんちゃうかって、アッキーに内緒で相談したんよ」 「そ、それってもしかして、喫茶黒バラで?」 「そやけど。なんで優がそんなこと知ってんの」  尋ねられ、慌ててなんでもないと首を振る。  菱川は見合いの当日、何度も早紀に優の連絡先を尋ねたが教えてもらえなかった。  だから仕方なく、早紀が不在のころを見計らって、直接優に会いに宮地家を訪れたのだと言う。  どうにか頻繁に連絡を取り合う方法はないかと考えて、自分は早紀に振られて傷心だという話をでっち上げ、なぐさめてもらうことを名目に、菱川は優の連絡先を聞きだすことに成功した。 「じゃあもしかして、あのときの話は全部、嘘やったんですかっ!?」  ファミレスでの数分間、優が親身になって聞いていたのは、菱川の迫真の演技によるほら話だったというのか。
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