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 優は、まさかこんなことになるとは思っていなかった。  幼いころの暁生は病弱で今みたいに体も大きくなく、保育園から小学校の中ごろまで近所の悪ガキたちにみそっかす扱いされていた。  優の役目はそんな暁生を守ることだった。  いつも自分を信じて懐いてくる素直な暁生を、優はかわいがっていた。暁生が病弱であることをネタにしていじめる悪党どもが許せなかった。  暁生を守る使命を自ら受けもったことで、優の中の正義感は育った。  そんな小学生時代のある日のこと。暁生は突然、強くなりたいと言った。 『強くって、どういうことや?』 『優に守られんでも平気になりたいねん』 『俺、迷惑やったんか?』  今まで自分のやってきたことが単なるおせっかいだった、と言われた気がしてしゅんとする優に、暁生は違うと言った。 『迷惑なんかとちゃう。優が守ってくれて、めっちゃ嬉しかった。でもこれからは、ぼくが優を守れるようになりたいねん!』 『はあ?』  高々と宣言する暁生に、優はくっきり二重まぶたの目を歪めてみせた。  暁生の言ってる意味がよくわからなかった。自分はいじめられていないため、守られる必要などなかったからだ。  でもきっと、暁生は同い年の男にこのさきもずっと守られっぱなしなのが嫌なのだろうと思った。  自分も同じ男だからわかる。  変わりたいと言った暁生の気持ちを優は応援したくなった。 『そんなら、おまえはもっと笑ったほうがええ。いじわる言われたり叩かれたりしたときに暁生が泣きそうな顔するから、あいつらつけあがるねん。いじめられたときこそ笑え。そしたら気味悪がっていじめてけえへんようになる。だからこれからはいつも笑っとけ』 『そっかぁ、なるほどなー。やっぱり優はかしこいなぁ』  尊敬の眼差しで見つめられ、優は鼻が高かった。  翌日から暁生は優の助言に従って笑顔を振りまいた。  今までめそめそしてた子がニコニコ笑いだすと、悪ガキたちは優の予想どおり気味悪がって暁生に近づかなくなった。  笑顔という武器を手に入れた暁生は、その日を境にしだいにいじめられなくなっていった。  そうやって優の守護下から飛びたった暁生は、中学、高校と成長を遂げるにつれ、パタパタと羽ばたきに羽ばたきまくって、いつのまにか手の届かない天上世界へと行ってしまった。  いじめられないための武器だったはずの笑顔は女性をとりこにするキラースマイルへと変化し、病弱だった小さな体はなにを食してそうなったのか(うどん?)立派な男の肉体へと変わり果てた。
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