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「き、君、そそ、そんなことどうやって調べたんだっ! 個人情報を勝手にばらまいて、プライバシーの侵害だ、名誉棄損だ。う、訴えてやるからな!」
「あなたが僕を、訴える、と……?」
にっこり笑う暁生の目だけが笑っていない。
恐ろしい笑顔で尋ねられて、菱川はヒッ、と肩を震わせた。
「人の家盗撮した人間がなに言うてはるんですか。優の人の良さにつけこんで、嘘八百並べて騙しおってからに。なんなら今から一緒に警察に行きましょか?」
どこからどう見ても暁生に分があった。
盗撮で捕まってしまえば、今後の菱川の人生に多大な支障をきたすことは明らかだった。
「ああ。ひとつ、提案なんですけど。もしあなたが金輪際、優に近づけへんって言うんなら、今回のことは警察にも会社にも内緒にしといてあげてもいいですよ?」
自分に分があることを、暁生自身も自覚しているのだろう。
表向き、提案という形を示していたが、その言葉の裏には脅迫というメッセージがこめられていた。
菱川が自分の身を守るために出す答えは、ひとつしか用意されていない。
さっきの強気な態度から一変、菱川は首を垂れて情けない声を出した。
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