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ぽん、と肩を叩かれて、優はびくりと全身を震わせた。
暁生はそんな優の震える肩をそっと撫でてから、笑顔を崩さぬまま厨房へと戻っていった。
暁生は菱川を解体し、すべてを晒してぼろぼろにしてしまった。
好きな男に寄りつく虫を徹底的に排除するという、恐ろしい精神でもって。
その行動の異常さが時間差でじんわり頭に理解をもたらす。
優の体は風邪でもないのにぞくぞく悪寒に包まれていた。
ここまで愛されておいてどうして暁生の愛を疑うことができたのだろう。
何度も繰り返される暁生の告白を嘘だと決めつけていた過去の自分が、優はとんでもなく間抜けに思えた。
それまで呆然と事を見守っていた常連客たちが、微妙な半笑いを浮かべながら、ぱらぱらとまばらな拍手を優に送った。
「よ、よかったなぁ、優。大ごとにならんで」
「ほんま、や。盗撮とか怖いし。おかしなことに巻きこまれんで済んでよかった、よな?」
みんなが顔を見合わせながら、これでよかったのだという空気を無理やり作りだしている。
ここにいる誰もが、盗撮犯の菱川より暁生の変貌ぶりと狂気じみた優への愛に怯えていた。
そして、今まで冗談でからかっていた二人が、どうやら本物らしいということを知ってドン引きしていた。
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