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卓袱台に置かれた椀の中、光沢のある小豆の海に白玉がぷかぷか浮かぶのを目にして優は微笑んだ。
暁生は毎週金曜の夜に、なにかしら甘いものを手作りして宮地家を訪れる。
菓子作りは暁生が中学三年生のころからはまっている趣味で、幼なじみである優はその毒味係だった。
始めのころは、塩と砂糖を間違えるという若妻みたいな失敗をして体に悪そうなチョコレートケーキを作ったことがある暁生も、五年経った今ではそんな失敗はしなくなり、それどころかたいていのものを完璧に作りあげることができるようになっていた。
その暁生の成長は優にとって嬉しいものだった。
なんせ幼なじみが自分の大好きなスイーツを作ることを趣味にしていて、しょっちゅううまいものを届けにやってくるのだから。
「やっぱりぜんざいには塩こぶやなぁ」
優の正面に座る暁生が、しみじみと呟きながら宮地家手製の塩ふき昆布をつまむ。
「あまーいぼくに塩っ辛い毒舌の優が合うのと一緒やなぁ」
「キモいから黙って食うてくれ」
「うわぁ、その辛口の刺激がたまらんわぁ」
「そんなん言うて、昼間は客の女に色目使ってたくせに。誰にでもいい顔しやがって」
「ぼくがいつ女の子に色目使ったんよ。ぼくが色目使うんは、優にだけやで」
みんなに平等に振りまかれる微笑みを、優は真正面からうろんげに見つめた。
毎日毎日嫌になるほど口説かれ続けているけれど、そんなものは暁生のたわむれごとにすぎない。
好きだと、愛してると、言われれば言われるほど真実味は薄れて嘘くささが増し、今や暁生の口から出てくる口説き文句を優はまったく信用できなくなっていた。
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