失恋 〜 瑠璃苣と蛸と白ワイン

1/15
前へ
/483ページ
次へ

失恋 〜 瑠璃苣と蛸と白ワイン

 どんよりとした鈍色(にびいろ)(くも)り空が広がって、霧雨(きりさめ)が降り出すと、つい(ため)息混(いきま)じりになる。濡れた足音は地下街では反響して聴こえた。()(ちが)雑踏(ざっとう)、猫背の肩越しに浮かぶ月虹(げっこう)。淡い銀の光はエンゲージリングにも見えた。 (質屋で売ったら(いく)らくらいになるかしら)  行くあてもなく、裏路地を彷徨(さまよ)っている。(くり)色の(もや)が立ち()め、来た道も思い出せず、日焼けした指輪の(あと)をなぞる指先は震えた。薄明かりの窓辺、口付け合うシルエットも、この都会では見えない。星より遠く感じる。  駅前にある食事処での送別会も終わって、とぼとぼと独りで歩く帰り道、少し迷った。大通りに出て行きながらも気分は落ち込む。
/483ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加