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そしてもうひとり。
「よっトーコ。荷物はこれだけか?」
当り前のように、透子のスーツケースを背中に担ぎ上げてくれるのは、冬依の兄の秋哉。
透子は慌てて、
「秋哉くん、それキャスターが付いているんだから、転がしてくれていいのよ」
「ヘーキ。こっちの方がトレーニングになる」
ぶっきらぼうに言うと、先に立って歩き出す。
愛想はないけど、やさしい。
こちらも整った鼻筋と切れ長の瞳の大変きれいな男の子だ。
高校3年生で、俗に言うイケメン男子なのだけれど、
「トーコ、長旅だったんだろう。便所いっとかなくてヘーキか、漏らしたりしねーか」
デリカシーが、ない。
「オレはちゃんと家で出すモン出してきたから、ヘーキだぜ」
欠片もない。
とてもとても残念なイケメンなのだ。
いろいろ突っ込みたいところはあるが、でもこのふたりのお陰で、こんなに人が多い場所でも、簡単に合流することが出来た。
ふたりは、まるでそこだけスポットライトでも当たっているように、光っている。
しかし、
「あれ、鈴音は?」
肝心の鈴音の姿が見当たらない。
兄弟たちが眩しすぎて、埋もれてしまったのかと思ったが、そうではない。
最初からいなかった。
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