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「ああ、熱を出すと、不安がるクセは知ってるけど、さすがにちょっと殺意がわいた」
冗談ぽく言っているが、目が笑っていない。
それに残念ながら、夏樹はまったく覚えていなかった。
「秋哉や冬依が一緒に寝てなかったら、殺ってたな」
物騒すぎる発言に、襟首を掴みあげていた冬依を、ボトリと落としてしまった。
『ヤバイ。危なかった……』
クリスマスで稼ぎ時なのに、早く帰れと職場である店を追い出されたのは覚えている。
感染症だとマズイから、家に帰りつくなり部屋に閉じこもった。
そこまでは覚えている。
後は、体中が痛くて寒くて、苦しかった。
でも、熟睡できたのは、いつからだろう。
冬依の甲高い声が、耳のすぐ側で聞こえた。
秋哉に力づくでベッドから引きずり出されたときは、正直殺してやろうかと思った。
だけどすぐに体中に温かくて柔らかいものに包まれて、ひどく安心した。
あれが鈴音だったのか?
そんなこと考える間もなく、夏樹は深く深く眠ったのだ。
眠りに落ちていった。
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