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春一は、鈴音に床に押し倒されていた。
「あ、ごめん」
反射でドアを閉めるが、
「ち、違うのよー、透子」
鈴音の情けない声がリビングから響く。
首を捻るように上を向くと、夏樹が、
「な、イチャイチャしてたろ」
肩をすくめながら言った。
透子も、
「ええ、してたわね」
そうとしか、言いようがない。
「違うの、私が転びかけたのを春さんが支えてくれようとして、それで一緒に転んじゃっただけなの」
必死になって訴える鈴音に、
「はいはい」
と適当な返事をする。
多分、鈴音の言っていることは本当だろうが、イチャイチャしていたのは、純然たる事実だ。
まあ、鈴音らしいといえば、これほどなく鈴音らしいエピソードだから、別に驚くほどのことでもなくて、平然と受け入れる透子に、
「もう透子ったら、全然信じてくれてない!」
鈴音は顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。
「はいはい」
そんな鈴音を適当にあしらいながら、透子はこっそり春一を盗み見てみた。
春一は、大きな体を丸めるようにしゃがみ込んで、割れてしまったティーカップを片付けている。
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