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王は騎士と出会い、騎士は王と出会う
1、王の逃亡
難解な森に入るときは、道を忘れないように食べ物を落としながら進むという例がある。でもそれは、場合によっては危険なことではないか。
例えばそう、何かから逃げているとき。
自分の居場所を敵に教えているのと同じことなのだから、あっさり追いつかれてしまう。
逃げているときは、物も食べ物も……雫一つ、落とさずに逃げるべきだ。
全身からポタポタと水を落としながら逃げるのは、オススメしない。
「陛下ぁ! リオウ陛下ぁ!!」
「やっかましぃいい! いい加減風呂くらいゆっくり入らせろ!!」
手短にあったバスローブを着て、追いかけてくる侍女と側近から全力で逃げていた。身体や髪に纏わり付いている水を、切った風がより一層冷たくする。それらは通りすがりの周囲に飛びかかり、被害をもたらす。もはや日課となる光景であり、すれ違う者達は「ああ……またか」と呆れた目を向けてくる。
「いけません陛下! 浴槽に浸かる前に身体を洗うのは常識でございます!」
「だから自分で洗うって言ってんだろ! 何回言わせりゃ気が済む!」
「ええと確か今回で――」
「数えんでいい!!」
無駄な記憶力。優秀な側近だ、計算をするに大した時間は要しないだろう。
「誰が好き好んで侍女に身体を洗われたいか!」
「なら侍男ならよろしいのですか?」
「尚悪いわ!」
「毎日毎日……この者達の何が気に入らないのですか!? 今年のミスコンの最終選考に残った者達ですよ陛下!」
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