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久遠は片手で、
何かの感情が出て来るのを止めるように、口を押えた。
「なんで言ってくれなかったのかな?
もっと頼って欲しかった。がまん強い人だったから。
あの人は異邦人(エトランジェ)で、苦労をしていたはずなのに」
久遠の目から、涙がポトンと膝に落ちた。
それからポタポタと、連続で涙が落ちていく。
「お母さんは・・・
きっとあなたに、心配をかけたくなかったのでしょう?」
天音はそう言って、
そっとバックからティッシュを
取り出し、久遠に渡した。
愛する息子に、
弱っていく母親の姿を、見せたくなかったのかもしれない。
美しい姿のままで、記憶に残したいと思ったのか。
久遠は、ティッシュを受け取り、目をぬぐうと、
「親父は1年後に再婚して、母親の物を、すべて処分したらしい。
俺と同じで、寂しがりの人だから、しかたがないと思うけど。
でも、俺の帰る場所が、なくなってしまったんだ。
俺も異邦人(エトランジェ)に
なってしまったようだ」
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