「何とかの糸」の説明

4/5
前へ
/19ページ
次へ
久遠は、ポケットから小さなハンディタイプの和英辞書、 それもかなり使い込んだものを 取り出した。 「これが、唯一の母親の形見なんだ。」 久遠がパラパラとページをめくると、一枚の赤いもみじの押し葉が、はさまっていた。 「きっと、とてもきれいだったから、残しておきたいと思ったんだろうね」 久遠はその押し葉を手に取ると、くるくると回した。 久遠の母親も、 紅(くれない)に染まったもみじの木を見上げ、 その美しさに見とれたのだろうか。 「日本の事ももっと、教えて欲しかったのに。」 天音は、その押し葉を見続けた。 「それで、天音ちゃんのもみじのホテルを見た時、 ここが俺の帰る場所だって、確信した」 久遠は壊さないように、もみじをページに挟んで辞書を閉じた。 「あと、天音ちゃんが黒い着物を着た時、本当に驚いた。 あの人は、セレモニーや大切なお客が来た時は、 黒い着物をいつも着ていたから。 まるで母親が、立っているかのように、 一瞬・・・思えてしまったからね」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加