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プロローグ
少年が見上げるのは、青い世界。
それは海を切り取ったかのような、目の前を覆いつくすほどの青。透明な壁の向こう、たくさんの銀色が自由に泳ぎ回る様は、少年の心をつかんで離さなかった。
「シンは本当に水族館が好きだな」
隣に立つ女性の呆れたような言葉に、少年は「うん!」と力強くうなずいた。
「だってこんなに速くてキレーなの、ほかに知らないもん!」
キラキラとした目は、やがてひとつの大きな影を捉える。
その影はほかのどの影よりも速く、まるで青い世界を切り裂いていくようだった。
「すっげー……、速っえーっ! なあなあアヤメさん! 今の、今の速いやつ何!?」
女性は少年の視線を追った。そして「ああ、あれか。あれはな……」と少年の質問に答えていく。説明を聞きながらも少年は、片時も青い世界から目を離さなかった。
「あんなに速く泳げるなんて、よっぽど泳ぐの好きなのかなぁ」
少年の純粋な言葉に、女性は苦笑じみた顔をする。
「それは、どうなんだろうな。……なあシン。お前は、息をするのは好きか?」
女性からの突然の問いに、少年は初めてそちらに視線を向けた。
「んー? わかんない。だって息しなきゃ死んじゃうじゃん」
「そうだな。それは好きか嫌いかで語るようなことじゃない。……あいつらにとって泳ぐってことは、そういうことなんだ」
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