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「みおさん、あなたが承諾してくれれば、私はあなたからもう一度今の状況を聞いて、役所に戻ってから葛西さんの親族の方に引き継ぎをしようと思うの。どう?」
佐藤さんは、こういっては何だが葛西さんの提案を引き受けてほしそうだった。
そうよね。こんな記憶喪失の女、この人にとっては厄介な案件に違いないよね…。そりゃあ他の人が代わってくれるならその方がいいのか…
「先生、私、葛西さんにお世話になっていいのでしょうか…」
私は自分では判断がつかなくて先生に助けを求めてしまった。
「うーん、向こうから申し出ている話だしねえ。こういっては何だけど役場勤めの親戚の方もいるし、葛西さんの家でしばらくご厄介になって生活の基盤を作る方がいいかもしれないよ。
何回も言うけど君の記憶喪失は一過性のものだから、その間に思い出す可能性も十分あるんだ。その時に周りに知ってる人がいた方が心強いと思うしね。」
「そうよ。申し訳ないけど、私はサポートはしますけど付きっきりではいられませんからね。あなたはどう見ても成人してますし、基本はご自身一人で生活していただかないと。」
また、佐藤さんが口を挟んだ。
やはり葛西さんの話は普通はあり得ない、ありがたい申し出のようだ。
確かに万が一記憶が戻った時は、佐藤さんの話だと私は独りぼっちでいる可能性が高い。そんな状況で耐えられるだろうか…。海にまで飛び込んだのだ。余程酷いことがあったに違いない。
「…わかりました。折角葛西さんがそう言って下さってるなら、その話をお受けしようと思います。」
私はそう返事をしてしまった。
「そうか。なら、僕から葛西さんに連絡しておくよ。明日は日曜日だから彼、仕事が休みだって言ってたし。じゃあ君の退院は明日ということで。」
先生はそう言って病室を出て行った。
「では、私は今からあなたにもう一度今の状況を聞きますね。」佐藤さんはホッとした顔で言った。
これで…本当に良かったのだろうか。
私は自分の選択にイマイチ自信が持てなかったが、退院に向けて話が進んでいったのだった。
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