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私の過去
私は実の父親の顔を知らない。
物心付いた時には母と二人だった。
母は看護師だった。仕事は忙しく保育園も預かり時間は長かった。夜勤がある時は別の保育園に預けられていたみたいだった。
だからほんのたまに、母が休みの時は嬉しかった。
七歳の時、母と出掛けた島の海の景色はよく覚えている。
遠出の思い出はそこぐらいだった。
海は初めて見た。水がとても綺麗だったのも幼心に感動的だった。
小学校に入学すると、授業後は学童に預けられていた。
母が夜勤がある時は、学童から帰り、夕飯を一緒に食べた後そのまま一人で寝て、朝は用意されたパンを食べて一人で戸締まりをして学校に行っていた。
母は忙しいなりにも私のことを必死に育ててくれた。
だから私も母を困らせてはいけないと常に思っていた。
「澪は手のかからない、いい子ね。」
母に褒められると嬉しかった。
母がいない時は寂しかったが、保育園も学童も先生や周りの子に恵まれて、楽しく過ごすことができた。小学校入学後も特に問題はなかった。
私はどうすれば周りが喜んでくれるかに長けていた。
大抵にこにこ笑顔でいれば、周りの人間は「おとなしくて可愛いい、いい子」と優しくしてくれた。子ども同士もそうだった。そう振る舞えば快適に過ごせる術を知っていた。母をそこまで頼れないので必死に身に付けた術だった。
粗暴だったり人に不快なことをするような子どもではなかったのは、一重に母の愛情を感じていたお陰だと思っている。
そして小学校二年生になると、私に新しい家族ができた。
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