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気持ちの変化
私は小学五年生、兄は中学三年生になっていた。
ある日私は帰宅し、リビングでピアノの練習をしていた。
練習している途中で母が買い物に行くと家を出て行った。
一時間ぐらい経ってふと気が付くと人の気配があることに気が付いた。
振り向くといつの間にかソファの上に兄が座り、首を傾けて寝ていた。
お兄さん、帰って来てたんだ。珍しい…いつも部活で遅いのに…
兄はサッカー部だった。平日も土曜日も部活があり、中学校に入ってから会話はめっきり減っていた。
私はソファの隣に座って寝顔をまじまじと見つめてしまった。
お兄さんって、ニキビとかもないし寝顔も綺麗…やっぱり友達が話すお兄さんとは違う…
それに友達はクラスの滝川君や浜田君が格好いいって言ってるけど、私は断然お兄さんの方が格好いいと思う…
その時私は何を考えていたのか、思わず兄の頬を触ろうと手を伸ばしてしまった。
兄の目が開いた。
「澪…?」
兄がキョトンとした顔でこちらを見ていた。
「あ…えっと…その…お兄さん、お帰りなさい」
私は慌てて手を下ろして言った。
「…俺、寝ちゃったんだ…」
兄は一回欠伸をした。
「お兄さん珍しいね。こんな時間に帰ってくるの。」
「定期テスト前だから部活がないんだよ。帰ったら澪がピアノを弾いてて、いい曲だなって思ってソファに座って聴いてたんだ…」
「あ、この曲ショパンの『別れの曲』で…」
「そうか。俺、受験前まではピアノやっていたけど辞めちゃったからな。澪、ピアノ凄く上達したんだな。」
「そ、そう?」
私は兄に褒められて嬉しくて笑顔になった。
すると、兄はじっと私の顔を見つめた。
「澪…大きくなったな…」
「えっまだこの家に来て三年しか経ってないよ。」
「そうか…」
兄はそう言って私の頭を撫でた。私は兄に頭を撫でられるのが好きだった。
兄も笑顔だった。
…あれ?私、何か心臓がドキドキしてる…どうして?
「澪のピアノまた聴きたいな。今度から俺が学校から帰って来る頃に練習して。」
「う、うん、お兄さん、ありがとう。」
でも、兄はまた私の顔をじっと見つめた。
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