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兄の部屋に入るのも久しぶりだった。いつ入っても部屋の中は整然としていた。
「お兄さんの部屋っていつも片付いているね。」
「俺は物をごちゃごちゃ置くの好きじゃないからな。」
「私の部屋はもっと物が多いよ。」
「そうか。澪の部屋は最近入ってないな。」
「お兄さんはいつも忙しいしね。」
「まあな…」
そして兄は私に算数を教えてくれた。兄の教え方はとてもわかりやすかった。
しばらく経つとノックがした。
母がドアから顔を覗かせた。
「澪…怜弥君の勉強の邪魔をしているの?」
母は私の顔を見た途端、顔をしかめた。
母は相変わらず私に厳しく兄には優しかった。母の呼び方も「ママ」ではなく「お母さん」と呼ばなくてはならなかった。
「お母さん、僕が澪を教えるって言ったんだよ。」
「そ、そうなの?怜弥君、いつも澪に優しくしてくれてありがとね。澪、ほどほどにしなさいよ。」
「は…い」
ドアが閉まった。
「澪、俺は全然いいからな。分かるまで教えてやるよ。」
兄はいつも通り優しく言ってくれた。
こうして私は時々兄の部屋で勉強を教えてもらうことになった。
私は優しくて格好いい兄にドキドキすることがあったが、この気持ちが何なのかはわからなかった。
そして兄もふと気が付くと、私の顔をじっと見つめていることがあった。
兄にそうやって見つめられると何故か落ち着かない気持ちになった。
こうしてまた、しばらく時が過ぎていった…
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