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「着ている服は同じだけどな…」
私の着ていた服は濡れただけだったので、病院で洗濯させてもらって、また着ていたのだった。
海に飛び込んだあの時、響くんが素早く引き上げてくれたのが幸いして私は意識がなかっただけで、呼吸も正常にしていた。なので蘇生措置は行われなかったらしい。
「みお、待合室のあそこのソファで、すげえ暗い顔して座ってた。あの時話し掛ければ良かったとも思うけど…今もここにいても何も思い出さねえ?」
「うん…」
「そっか…でも、元気になって良かったよ。」
「あの、私、本当に響くんの所でご厄介になっていいの?」
「ああ、お袋と姉貴には了解とってるしな。」
「そういえば響くんのお姉さんの旦那さんが役場勤めとか…」
「ああ、タカシさんがみおの今後のこと、引き受けてくれるって。今日俺の家に姉貴一家も来てくれて、俺がみおを連れてくるの待ってる。」
「あの…響くん…」
「うん?」
「どうして私のことそこまで…響くんは私を行き掛かり上助けてくれただけで、はっきり言ってここまで親切にしてくれる義理はないと思うんだけど…」
「それは…」
その時待合室のみんなが立ち始めた。船の出航準備が出来たようだった。
「行こうぜ。」
響くんが声を掛けた。
船に乗り込んで出航した。船の中は満席ではなく、座ることができた。
「四月に入ったからな、三月の春休みだと満席になるけど…」
響くんが呟いた。
しばらく無言で席の窓から景色を見ていた。
「みお、やっぱり何も思い出さねえ?」
「うん…」
「なら…甲板に出てみてもいいか?」
響くんはためらいながら聞いた。
「いいよ。」
私は返事をした。
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