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「孝輔さんは、面白くて気さくないい人だよ。」
私の答えに兄は表情を変えずに言った。
「孝輔のことは好きなのか?」
「えっ好きって…」
私はびっくりした。好きって…彼氏になって欲しい好きだよね?
「う、ううん。そうではないよ。」
「孝輔と二人で会いたいとは思わないのか?」
「う、うん。私はお兄さんも一緒にゲームをしてるので十分楽しいよ。」
兄はまたじっと私を見つめて言った。
「もし、澪が孝輔と付き合いたいって言ったら孝輔は応えてくれると思うよ。」
「お兄さん、どうして孝輔さんのことばかり言うの?私は別に好きだって言ってないじゃない。」
「じゃあ、澪は他に好きなヤツがいるのか?」
え?好きな人…?
私は兄の顔をじっと見つめた。
私は孝輔さんよりお兄さんが好きだけど、これは違う意味の好きだよね?
「い、いないよ。だって私の周りは女子ばかりだし…」
「そっか…」
兄はそう呟いて私の頬をぷにっと摘まんだ。
「お兄さんこそ、彼女はいるの?」
「俺?」兄は少し面食らった顔をした。聞かれると思っていなかったみたいだ。
「…特定の人はいないよ。」
私は目を丸くした。じゃあそれって逆に不特定多数はいるってこと?そう言えば孝輔さんが私と初めて会った時「怜弥は女のコに人でなし」と言い掛けてた…
兄は私から目をそらして言った。
「俺の好きなコは俺のこと好きじゃないから…」
私は酷く驚いた。
え?お兄さんのこと好きにならない女の人なんているの?
「お兄さん、格好いいし優しいのに?」
私は思わず本人の前で呟いてしまった。
しまった…兄妹でこんなこと言うのおかしいよね。
私は顔が赤くなってしまった。
すると兄は私の顔をじっと見た。
「澪は俺のことそう思ってくれてるんだ…」
そう言って今度は私の頬を撫でた。
「う、うん…」
頬を撫でられるのは初めてだったので、私は顔が赤いままだった。
「そうか…」兄は笑顔で手を離した。そしてそのまま手を私の頭の上に置いた。
「家を出るとは言っても、休みには帰って来るからさ。その時また澪のピアノ聴かせてよ。」
「わかった。」
兄はそのまま私の頭を撫でた。
お兄さんの決意は固いんだ。寂しいけど仕方ないよね。私も兄離れしないと…
私は兄を引き留めるのは諦めたのだった。
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