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それから一ヶ月近くの私の記憶は、朦朧としていてあまり覚えていない。
通夜と葬式は現実味がなくショックで涙も出なかった。
葬式の時に私の生みの父親が来た。
私は父と会っても何の感慨も湧かなかった。
私にとっての父は、育ての父だけだった。
父は母とのことを話してくれた。
母と父はデキ婚でそれもその時学生だったそうだ。
看護師学校を卒業してすぐ母は私を産んだ。
しかし父は就職一年目で心身共に余裕がなかった。それも周りの反対を押しきっての結婚だったから、誰にも頼れなかった。
初めての子育てに精神的に不安定になっている母と、育児に全く協力しない父との喧嘩が絶えなくなった。挙げ句に父は浮気もしたので私が一歳の時に離婚したそうだ。
父は私には会いたがったが母はそれを許さなかった。養育費を払わなくてもいい代わりに、父は二度と私に会えなくなったという。
父は、今は自分も別の家庭を築いているので私を引き取ることはできない、申し訳ないと土下座して言われた。
私は「そうですか」と答えただけだった。
父との対面はそれで終わった。
葬式が終わってからは私は一気にタガが外れて、泣いて暮らした。
その傍には県外から駆け付けた兄が付いていてくれていた。
兄がいなかったら私は両親の後を追っていたかもしれない。
泣いて寝ての繰り返しで、気が付くと兄に抱きしめられていた。
何を食べていたかもよくわからなかった。
かろうじて風呂には入っていた。それだけだった。
こうして一ヶ月が過ぎた。
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