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兄が用意してくれた朝ご飯を食べながらふと気が付いた。
「お兄さん、家の掃除とか洗濯って…」
「ああ、俺がやってた。最低限だけどな。」
「ありがとう。私も今日からやるね。それに料理も。」
「澪、料理できるのか?」
「…そう言えばできない」赤い顔で言うと兄はプッと吹き出した。
「これから覚えるから。」私は膨れた顔で兄を見た。
兄は笑っていたが、頬から涙が流れていた。
「お兄さん…」
私は驚いて兄の顔を見た。
「…ごめん」
兄は照れ臭そうに涙を拭った。
「澪が泣いてる以外の顔を見せるの久しぶりだったからさ…この一月澪は泣いてるだけで殆ど喋らなくて、俺、このまま澪が壊れたらどうしようかと思ってた…」
「…ごめんなさい…」
「でも、こうして話もできるようになったからホッとしたよ。」
「…お兄さん、そう言えば院に戻らなくて大丈夫なの?」
「ああ、教授には話してきたから。澪の大学にも連絡はしてあるよ。」
「ごめんなさい。私全部お兄さんに任せてばかりで…」
「家の色々なことは俺だけでは無理だから、友明叔父さんがすごく助けてくれた。」
「友明叔父さんが…」
そう言えばこの一月の間、よく家に顔を出してくれていた気がする…
友明叔父さんはお父さんの弟だった。独身で弁護士をしていた。盆や正月にしか会わなかったけど、会うといつも穏やかに優しく接してくれた。
母の身内は父の他には祖母だけで、今は施設で暮らしているらしく、音信不通だった。葬式にも来なかった。
父の身内ももう死去していて、私たちの身内はもう友明叔父さんしかいなかった。
「叔父さん、実は一緒に住まないかって言ってくれてるんだ。」
「そうなの?」
「俺は四十九日まではここにいるけど一旦院には帰ろうと思う。その後は澪この家に独りになるから、叔父さんの所へ行くか?」
「え?」
どうしよう…叔父さんと二人暮らし…それはそれで気を遣うよね…
「ごめんごめん、突然そんなこと言われても困るよな。とりあえずご飯食べたら掃除とか洗濯とかして、家の片付けの続きをやろう。澪、手伝えるか?」
「うん、勿論。私、お昼ご飯作ってみるよ。」
「簡単なメニューなら俺、教えれるよ。」
「ほんと?」
「ああ、一緒に作ろう。澪、食べて少し太らないとな。」兄は笑顔で言ってくれた。
食べた後、私は鏡で改めて自分の姿を見た。
確かに蒼白い顔でやつれていて、前より痩せていた。
お兄さんが心配するはずだ。本当にちゃんとしよう。これ以上お兄さんに迷惑掛けていたら駄目だよね。
私は両頬を自分でぺしぺし叩いて気合いを入れ直したのだった。
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