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夏休みに入り、兄は院を辞めてこっちに戻ってきてくれた。
私はピアノ教室の受付のバイトと、新たにオムライス屋さんのバイトをしていた。ピアノの練習もあり忙しかった。兄も試験勉強をしないといけないので、いつも一緒ではなかったが、いる時は家事もよく一緒にやってくれた。
料理の腕は結構上がった。家の片付けをしている時に母が書いたレシピ本が見つかり、それを見て作るようになった。
何より美味しくできると兄が褒めてくれるのが嬉しかった。
私がバイトがない日などは兄と出掛けて、ショッピングモールに一緒に行って買い物をしたり映画を観たりした。今まで兄と二人で出掛けたことがなかったので、私は内心デートをしているみたいで嬉しかった。お互いの服を見るのも楽しかった。
でも、兄といればいる程切なくなった。兄はあくまでも私のことは、妹として大切にしてくれてると思っていたからだ。
戻ってきてからは勿論添い寝もなくなった。たまに頭を撫でられるぐらいだった。
公務員試験が終わり、九月に入ると兄もバイトを始めた。前ほど家にはいなくなった。
私はオムライス屋さんでたまたまシフトがよく重なる男の子と、親しく話すようになった。彼は同じ大学一年生で、名前は櫻井勇樹といった。
元々バイトに入った時から一緒になることが多く、わからないところを聞くと彼は親切に教えてくれた。
男の子に免疫がほぼない私でも、彼は話しやすい感じの人だった。
優しく教えてくれるところが、兄に少し似ていると思った。顔は整っている方だった。
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