彼の家族

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「はい…申し訳ありません。」 「自分のことは何も?どんな仕事についていたとか、家族のこととかも?」 「はい…」 「でも、見た感じや受け答えからはお勤めしていたように見えるよ。」 タカシさんも口を挟んだ。 「あ、あの、それは病院の先生もおっしゃっていました。私は多分どこかで何かの仕事に付いていたように見えるって。」 「ふーん…聞いた話からのイメージとだいぶ違うわね。」 お姉さんがボソッと呟いた。 お母さんが湯飲みにお茶を入れて持ってきてくれた。 「ありがとうございます。」私は頭を下げた。 「じゃあ、詳しい話はあんたたちで進めて。」 「え?お袋同席しねえの?」 響くんが驚いて聞いた。 「店が心配だし、私は前にお前たちと打ち合わせた内容でいいから。後はユカリたちと話をして。じや、みおちゃん、ごゆっくり。」 響くんのお母さんは私に笑顔で言って席を外してしまった。 響くんは拍子抜けした顔をした。 「お袋、みおを見て安心したのかな。」 「まあ、そうかもね。」お姉さんが言った。 それから私の方を向いて 「みおさん、響から聞いてると思うけど、あんたの記憶が戻るか、生活が落ち着くまではこの家で面倒見ることになったから。」と言った。 「あの…本当にいいのですか?こんな見も知らずの私にそこまでしていただいて…」 「響が言って聞かないし、ひょっとしてあんたが何か企んでいて、この家を引っ掻き回そうとしてるなら遠慮してもらおうと思ってたけど、そんな風には到底見えないからまあ、いいわよ。」 お姉さんは少し笑顔で言った。 私はお姉さんの顔にホッとした。 「響くんから聞いてると思うんだけど、僕はこういう者なんだ。」 タカシさんが名刺を渡してくれた。 タカシさんは眼鏡を掛けていて優しそうな方だった。 ○○役場 福祉課 才羽隆志と書いてあった。 「私とこの子の名前も書いておくね。」と、お姉さんが横にボールペンで「友加里」「菜々」と書いた。 「私と旦那は同い年で響の三つ上、この子は娘で二歳なの。」 菜々ちゃんは私と目が合うと恥ずかしそうにお姉さんの胸に顔を隠した。 「可愛らしいですね。」私は少し微笑んで言った。 「それで、今日からなんだけど…」 響くんが口を開いた。
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