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彼の幼馴染み
こうしてしばらく時が流れた。
お店の手伝いは順調で、お姉さんには「私がここに来る時間短くしようかな。そうしたら、菜々の預かり時間も短くなるし」と言われた。
隆志さんとの話も、「そんなにお店が助かっているなら様子をみようか」となり、今すぐ別の就職先を探すということにはならなかった。
響くんと夕飯を一緒に食べることは続いていた。
響くんは、嫌がりもせず私に仕事の話をしてくれた。彼の学校の話は聞き応えがあり、話を聞くのは楽しかった。
響くんと話していると誰かともこんな風に話していたようなデジャブは相変わらず感じていた。
私はハッキリ言ってこのまま響くんの家にずっといたかった。
彼はいつも私に優しかった。
響くんは病院の診察もちょうど土曜日で学校が休みだからと、付き添ってくれた。
病院の先生は、デジャブのことを話すと
「その話していた相手は昔君の好きな人だったかもしれないよ。葛西さんと話していてそう感じたんでしょう。あなたは彼に好意を持ってるからね。」と言った。
「そ、そんなことないです。葛西さんは親切にしてくださるから、感謝はしていますけど、好意だなんて…」と私は必死に否定したが先生は、にこにこと笑うだけだった。
でも…仮に話していた相手が好きな人だったとしたら、何で私あんなことを…
やだな、記憶が戻るのはやっぱり怖いな。
私はそこまで記憶を取り戻したくはなかった。
しかし、現実はやはり甘いものではなく私に対して好意的な人ばかりではなかった。
病院の帰り、船で島に戻ると、また切符を渡す人は響くんの幼馴染みのマサトさんだった。彼はここで働いているらしかった。
「何、二人で出掛けてたの?」
マサトさんは、私のことをいかにも胡散臭い者を見る目付きで言った。
「別にお前には関係ねえだろ。」響くんは、そっけなく言った。
「リカがうるせえんだよ。最近響の家にいる女は誰だって。」
「ああ、リカにも親戚のコだって言っといて。」
「お前が自分で言えよ。リカはお前にゾッコンなんだから。」
私はズキンとなった。
リカさんってコは、響くんが好きなんだ…。
「アイツが俺に持ってる感情は麻疹みてえなもんだって。」
「そんなこと聞いたらまたアイツ怒るぞ。」
「とにかく、彼女は親戚だから。」
響くんは、そう言って私を促した。
駐車場に着いて私は思わず言ってしまった。
「…私、マサトさんにはあんまり良く思われていないんだね。」
「アイツは昔から俺に対して心配性なんだよ。悪いヤツじゃねえんだけど…。」
「私が何か企んでるって思ってるのかな。」
「全然違うのにな。…また、折を見て話しとくから、みおは心配しなくていいよ。」
響くんは私の頭を撫でながらそう言ってくれたが、私はモヤモヤが晴れなかったのだった。
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