病室で

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「…なあ」 茫然としている横で、葛西さんに話し掛けられた。 私は虚ろな顔で葛西さんの顔を見た。 「あんた、ほんとに何も手がかりがねえのかな?」 「…え?」 「例えばそのカバンの中とかさ。」 葛西さんは私のベットの側に置いてあるイスの上のカバンを見た。 「で、でも携帯もないし、財布にも身元のわかるものは入ってなかったってお医者さんが言ってて…」 「でも自分できちんと確かめてねえだろ。もう一度見てみたら?俺も確認してやるよ。」 「は、はあ…」 この人、どうして見も知らぬ私にここまで親切なんだろう… 私はカバンを持ち、簡易机をベットの上に出してそこに置いた。 そしてカバンの中の物を出した。 葛西さんは、カバンが置いてあったイスに座って私の荷物を確認しだした。 「財布、ハンカチ二枚、ティッシュ、ポーチだけか。ポーチの中は?」葛西さんが呟いた。 私は小さなポーチの中身を出した。口紅とファンデーションとアイシャドウが入っていた。 「手がかりなしか…財布の中は?」 財布の中は現金が数万円と小銭が入っているだけで、後は何も入っていなかった。 「…やっぱりこれは、ある程度覚悟してたのかもな…」葛西さんが呟いた。 「命を絶つことにですか?」 「ああ、免許証も保険証もねえもんな。」 「おそらく…そうだったのでしょうか…」 私はそこまで絶望していたんだ。でも、何に? だが、荷物を見ても何も思い出せなかった。 「あれ、でもこの二枚のハンカチ一枚は綺麗だけど、もう一枚はちょっと古びているな。」 「そう…ですね。」 私もハンカチが二枚入ってるのは不思議に思い、古びたハンカチの方を広げた。 恐らく元は白色のハンカチだったと思うのだが、所々に黄ばんだ後があった。 「これ…刺繍がしてあるぞ。」 「え?あ、ほんとだ。」 広げたハンカチの右下に花の刺繍とローマ字でMIOと縫いつけてあった。
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