病室で

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「MIO…ミオ…?」 私はハンカチに縫いつけてあるローマ字を呼んだ。 「みお…名前じゃね?あんたの。」 葛西さんが私の顔を見つめて言った。 「名前…私の…」 みお…確かに名前にありそうだ。それもこの文字は誰かが縫い付けた感じだった。 「お母さんとかが縫った思い出のハンカチかもしれねえぞ。だからあんた、敢えて持ってきてたとか。」 「そ、そうですかね…」 「『みお』か…」 葛西さんが呟いた。 「え?」 葛西さんは私の方を見つめて微笑んだ。 「あんたの感じに『みお』って名前似合ってるよ。」 「そ、そうですか…?」 私は葛西さんの笑顔にドキッとしてしまった。 その時看護師さんが病室に入ってきた。 「それでは別の病室に案内しますのでベットから降りれますか?」 「は、はい。」 私は慌てて荷物をカバンにしまい、簡易机をしまってベットから降りた。 「あ、あの、葛西さん、本当に助けていただいてありがとうございました。」 私はイスに座っていた葛西さんに頭を深々と下げた。 「い、いや俺は行き掛かり上助けただけで…でも…俺…」 葛西さんはそう言い掛けてイスから立ち上がった。 「行きましょう。」看護師さんは私を促した。 「葛西さん、お元気で。」 私はそう言ってから葛西さんにもう一度頭を下げて看護師さんに続いた。 もうこれで葛西さんとは会うこともないのだろう。 しかし、病室を出る時に、 「みお!」 と、葛西さんに呼びとめられた。 私は驚いて振り返った。 葛西さんは少し笑顔でその後言葉を続けた。 「みお、またな。」 私はその言葉に驚いたが、もう一度葛西さんに頭を下げて病室を出たのだった。
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