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退院
私は精神科でしばらくの間入院になった。
しかし逆に記憶喪失になっているということで自殺する恐れが少ないと判断されたようだった。
入院している部屋は個室だったが、ドアに鍵がかかるだけで一般的な病室と変わらなかった。それも思い出すきっかけになればとテレビも見て良かった。
しかし体調は戻っていったが、肝心な記憶は全く戻らなかった。
毎日先生の診察を受けていても一向に思い出す兆しがなかった。
ただ葛西さんと見付けたハンカチの話をしたら、先生も恐らく私の名前だろうと言われた。
名前がないのも不便なので私は「みおさん」と先生や看護師さんたちに呼ばれていた。
入院してしばらく経ったある日先生に言われた。
「みおさん、体調はほぼいいし、もう間違ったことをしそうな感じもないし、そろそろ退院してもいいと思うんだよ。」
「はい…でも、私記憶が…」
「それは行政の助けを借りながら思い出していくしかないね。勿論この病院には定期的に通院してもらうけど。君は僕とのやり取りからも間違いなく成人女性だと思うしね。それも記憶を失う前は、職についてきちんと働いていたように思えるんだ。」
「そう…ですか…」
「早速連絡するから、役所の福祉課の方と色々相談するといいよ。病院に来てもらうから。」
「わかりました。ありがとうございました。」
そうだよね…いつまでもここに厄介になっていてはいけないよね…
でも、一人でどうやって生きていけばいいんだろう。役所の人が助けてくれるとはいえ不安だな。
その日の午後になった。
看護師さんから、役所の福祉課の担当の方が見えたと伝えられた。
ドキドキして待っていると、担当と思われる中年の女性と、困惑した表情の先生が一緒に病室に入ってきた。
あれ?先生も一緒に話を聞くのかな?
まず、女性の方が「よろしくお願いしますね」と名刺を私に渡してくれた。
△△区役所の福祉課 佐藤知子と記されてあった。
すると、先生が困惑した表情のまま私に伝えた。
「実は昼頃この病院に問い合わせがあって、君の身元を引き受ける人が現れたんだよ。」
え?
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