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2,出会い
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窓から差し込む夏の日差しが直撃するソファーは人気がない。女性達は日焼けを気にして日陰のソファーに集中している。席数が足りなくても日向のソファーに座ろうとはせず、日陰の壁にもたれて立っている。男性ですら日陰を選ぶ者が多く、もはや日焼けがどうこう以前の空間温度なのかもしれない。
日差しを一切気にしないのは、冷房が直撃している自分以外に元気な子供くらいで、親や兄弟に連れてこられて退屈なのか走り回ったり不満そうな声をあげたりしていた。
──高校、──学院、──学園、──高校……。
ここまで長くなるなら、本の一冊でも持ってくれば良かったと後悔する。暇潰しに貰った高校案内のパンフレットは全て目を通してしまい、新たなパンフを貰うにはオマケに付いてくる説明を聞いたり、知りたいわけでもない質問を何か投げなくてはならず、意外と疲れるそれを実行するのに重たい腰は上がらなかった。
友人に誘われて合同説明会に参加したのは、事前登録による図書カードが欲しかったからというだけだ。高校に行く気のない俺は、友人の高校案内巡りが終わるのを一人で待っている。もはや義務となりつつある高校に俺が行く気がないことを彼は知っているため、先に帰っていいとは言ってくれたが置いて帰るのはあまり気が乗らない。
仕方なく窓の外を眺めていた。出入りが自由なパティオも、もう少し空が曇っていれば人気があったろうに、最も日差しが激しい午後の今はこのソファーベンチ以上に人がいない。見える範囲では一人もいない。人の手によって植えられたであろう数々の花が、華やかさをもたらしながら立っている姿を視界に入れていた。
惹かれたか……と聞かれると、よく分からない。席を探していた人達の姿を見つけて、長時間座っている罪悪感から立ちたくなったのかもしれない。日差しは当たっても冷房が当たる分あそこはマシだから。何も考えず腰が上がり、足が動いていた。
足は暇潰しの相手……生きた観葉植物に向かった。
花を眺めていた。
彼と出会ったのは、そのときだ。
「その花が好きなのかい?」
自分以外に人などいない、来るはずがないと思っていた空間に、若い青年の声が隣から聞こえた。
驚きはしなかった。
ゆっくりと、声が聞こえた方向を見上げた。眩しくて目は完全には開けられず、視線は直ぐに花へと戻したが、彼が俺を見下ろしていることは細い視界と気配から分かった。
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