2,出会い

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「好きか嫌いかと聞かれると好きですが、この花が好きだから見ていたわけではありません。花は何であれ、普通に好きです」 「なんだ、熱心に見ていたから特別好きなのかと思った」  彼は俺と同じように膝を折った。  俺と同じように目の前の花を眺め始めた。 「俺は好きだよ、マリーゴールド。でも飽きた。だから嫌いとも言える」 「誰ですか、アンタ」  突然見知らぬ他人に話しかけてきて、正直不審者としか思えない。眉間に皺を寄せて警戒の空気を醸し出し、いきなりアンタ呼ばわりしても失礼ではない気がした。 「マリーゴールドと相対する者……かな」  片方の道は、彼によって塞がれている。ほんの少し遠回りになるが、もう片方の道からグルリと回って戻れば人を呼ぶことが出来るだろう。不審者と対面したときは話しで解決しようとせず、誰か大人に助けを求めるのが吉だ。  痺れつつある足を立ち上がらせ、彼に背を向けると腕を掴まれた。振りほどけなければ、もう声をあげるしかない。叫ぶよりも、彼が慌てた声をあげる方が先だった。 「ごめんごめん! 希絶高校の教師だ。説明会に来たのに座ってばかりいる男子中学生を勧誘しにきた」 「……ストーカーかよ」  教師だからといって大丈夫とは限らないが、学校名が書かれた名札を出して、それが偽物でなければ下手なことはしないだろう。 「覚えてない? オレ、受付で事前登録してくれた子の名前をチェックして図書カードを渡す、都合の良い係に就いていたんだけど」 「人の顔なんて、いちいち見てません」 「そういうものだよね。オレも子供ひとりひとりの顔なんて、自分が受け持つクラスの生徒でなければ意識して見ない。見たところでいちいち覚えてなんかいない。君が例外だったんだ、花菱ソウ君」  やっぱりストーカーだ。  今度こそ逃げられなくなりそうで、名前を記憶している点について指摘はしない。逃げる意志がないと、相手が勘違いをした隙をつく機会を伺う。視線を花に戻して熱心に見ていれば、彼もまた同じように花に目を向けてくれると期待した。 「推薦か何かで学校が決まっているわけではないにもかかわらず、君はこのイベントに参加している高校に興味をもたない。理由でもあるのかい?」 「……別に。ただ行きたいと思わないから、行かないだけです」 「じゃあ、どういう学校なら君は行きたくなるんだ?」
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