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少年の名は頼近美統(みのり)という。
私生児で母親は既に亡く、育ててくれた祖母もこの前亡くなった。まだ十歳になるやならずの歳であった。
葬式の日、母親の従兄弟だという清水という男が現れて香典やら、祖母が僅かばかり蓄えていた預金やらをさらばえた。美統もついでに引き取ったのは、何か使い道があるかもしれないと思ったからのようだ。
清水の家は、坂の半ばに雑然と植えられた植木の中に建っていた。
薄暗い家の中に入った時、悪寒がして美統は身震いした。
清水は美統を育てる気など毛頭無かった。清水の妻は夫に愛想を尽かせて、家を出ていったという。清水は朝から酒を喰らい、機嫌が悪くなると美統を呼んで折檻した。
美統は学校にも行かせてもらえず、まともな食事も与えられず、見る見る衰弱していった。
──そしてある夜、
しこたま酒を飲んだ清水は酔って妻の幻覚を見た。手を伸ばすと、それはたちまち消えて美統の姿になった。
清水にはもうどっちでも良かった。痩せた子供を引き寄せた。酒の臭いの中で子供は折檻にも等しい暴行を受けた。美統は泣きながら祖母を呼んだが、誰も来てはくれなかった。
清水はそのまま高鼾で寝てしまった。美統は衣服を身に付けるのもそこそこに、よろよろとその家を出た。途中で歩けなくなり這った。
這ってでもその家から逃げたかった。
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