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俺と泰則は高校で知り合った。
高校の頃は顔見知りという程度か、大学が一緒で何となくつるむようになって、ある日突然、泰則に愛を告白されたんだ。
「千尋、聞いてくれ。俺はお前が好きなんだ」
「泰則、俺だって、お前が好きだよ」
「そうじゃない。俺はお前を……、愛しているんだ。自分のものにしたい」
親友だと思っていた男の言葉に俺は動転した。泰則とは殆んど毎日顔を合わせていたが、そんな素振りは無かった。
どうしていいか分からなかった。その頃には、泰則は俺にとってかけがえのない友人になっていたのだ。泰則を失いたくないが、さりとて常識を覆すような事をすぐには受け入れられない。
「少し考えさせてくれ」
俺はそう返事をして、その場から逃げた。
その日は真直ぐ家に帰って、布団を被って寝てしまった。
泰則は俺が逃げ出したのを見て、不安に思ったらしい。彼にしてみれば、一世一代の勇気を振り絞っての告白だったからだ。
泰則は俺を追いかけてアパートに来た。
チャイムを鳴らすと、俺がよろよろと出て来て、額に乱れかかった髪と怯えたような眼差しが、妙に色っぽかったと、後で泰則は言った。
俺にムラムラッと来た泰則は、俺を抱きしめて布団に押し倒した。所構わずキスをしてうわごとのように「好きだ。愛している」と繰り返した。
初めてのコトは、俺には結構忍耐が要った。一つになったときには、もう二度としたくないと思った。
しかし、泰則に引き摺られてしまったんだよな。泰則はせっせと俺の体を開発したんだ。
まあそういう関係になってみると、俺たちは結構肌が合うというか相性が良かった。
俺は体温が低かったんで、暖かい泰則に抱きしめられるのが好きだった。抱きしめられて好きだと囁かれて、気が遠くなるまで何度も愛し合うのが……。
しかし、こんなことは憶えているのに、何でこうなったかは思い出せない。それに泰則で手一杯だった俺が、他の男を作る訳も無いし。
とりあえず他の人間では駄目だったし、この女に憑いて、もう一度入れないものか、機会を待ってみよう。
ああ、泰則……。俺はもう一度お前に暖めてもらいたいんだ。気が遠くなるまで激しく愛し合いたいんだ。
そして言えなかった事をちゃんと伝えたいんだ。
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