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女の身体の中に入ったときの衝撃か、暫く俺の思考が停止する。目の前に泰則の顔がある。
「大丈夫か、萌美」と俺を揺さぶった。
「泰則……、ああ泰則。俺だ千尋だ。分かるか泰則」
俺は泰則の腕を掴んだ。
「どうしたんだ、萌美?」
「違う」
ああ、もどかしい。どうして分からないんだ。
俺はぐいっと泰則の手を引き、書斎に行った。泰則がベッド代わりに使っているソファに泰則を押し倒す。
「俺だ、千尋だ。お前に会いたくて来たんだ」
「千尋……? 萌美、何の冗談を。あれほど嫌っていた名前を……」
俺はもう泰則の言葉を聞かずに、泰則の股間に手をもっていった。必死になって愛撫を施す。慣れた行為に、ゆっくりと泰則自身が勃ちあがる。
「俺だ、千尋だ。泰則、思い出してくれ」
「確かにこのやり方は千尋だ。でもどうして……?」
惑いながらも、泰則は俺に手を伸ばしてきた。
「顔は萌美なのに、この表情は、この雰囲気は、千尋……?」
「俺、お前に暖めてもらいに来たんだ。早く」
「ああ、その言葉も千尋のものだ。お前いつも俺に……」
泰則は俺の後ろを丹念に解し始めた。
「ああん、泰則……。もう……」
俺の催促に応じて、泰則が熱く滾った塊をゆっくりと挿入する。俺を攻めながら泰則が聞く。
「千尋、お前一体どうしたんだ? あの男は……!?」
「ああ……、泰則。俺にはお前だけだ。そんな男なんて知らない」
「ああ、顔は萌美の顔なのに……。千尋はいつもそんなふうに、首を傾けて斜めに俺を見上げて…」
「ああ、泰則……、もっと、熱くしてくれ……」
「そう、そう言って俺の体に足を絡めて……」
「ああ、熱い……、泰則──!!」
「千尋、千尋なのか……? どうしてこんな事に……」
「ああ…、分からない……、どうやら俺は、もう生きてないみたいで……」
「そんな! 千尋!! 俺を置いてそんな!!」
泰則が激しく突き上げる。
「ああ、泰則。俺は、俺は、あ、あい、ああ──」
イッてしまった。
泰則に言えなかった言葉を抱いて、体がホワリと女から離れる……。
「千尋!! 千尋──!!!」
泰則が女の肩を持って揺さぶる。女は気が付いて柳眉を逆立てた。
「あなた、まだそんな名前を!!」
泰則はガックリ来て女を離した。女は自分が裸で、泰則のソファベッドにいることに驚いた。
「きゃあ──!! 私、どうして──!?」
ガックリきている泰則を置いて、ガウンを羽織り廊下に飛び出した。バタバタバタ……と、女の足音が遠ざかる。俺は泰則の側にいた。体がホンワリと暖かい。昇天できるかも……。
「まだここにいるのか、千尋!! 俺も連れて行ってくれ!! 千尋!!」
俺は泰則の悲痛な声に、引き止められてしまった。突き抜ける手で泰則の頭を抱きしめる。
「千尋……」
ああ、泰則……。
俺はここにいるよ……。
少しは感じてくれるかい……。
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