一話 寒がりな幽霊

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 女の身体の中に入ったときの衝撃か、暫く俺の思考が停止する。目の前に泰則の顔がある。 「大丈夫か、萌美」と俺を揺さぶった。 「泰則……、ああ泰則。俺だ千尋だ。分かるか泰則」  俺は泰則の腕を掴んだ。 「どうしたんだ、萌美?」 「違う」  ああ、もどかしい。どうして分からないんだ。  俺はぐいっと泰則の手を引き、書斎に行った。泰則がベッド代わりに使っているソファに泰則を押し倒す。 「俺だ、千尋だ。お前に会いたくて来たんだ」 「千尋……? 萌美、何の冗談を。あれほど嫌っていた名前を……」  俺はもう泰則の言葉を聞かずに、泰則の股間に手をもっていった。必死になって愛撫を施す。慣れた行為に、ゆっくりと泰則自身が勃ちあがる。 「俺だ、千尋だ。泰則、思い出してくれ」 「確かにこのやり方は千尋だ。でもどうして……?」  惑いながらも、泰則は俺に手を伸ばしてきた。 「顔は萌美なのに、この表情は、この雰囲気は、千尋……?」 「俺、お前に暖めてもらいに来たんだ。早く」 「ああ、その言葉も千尋のものだ。お前いつも俺に……」  泰則は俺の後ろを丹念に解し始めた。 「ああん、泰則……。もう……」  俺の催促に応じて、泰則が熱く滾った塊をゆっくりと挿入する。俺を攻めながら泰則が聞く。 「千尋、お前一体どうしたんだ? あの男は……!?」 「ああ……、泰則。俺にはお前だけだ。そんな男なんて知らない」 「ああ、顔は萌美の顔なのに……。千尋はいつもそんなふうに、首を傾けて斜めに俺を見上げて…」 「ああ、泰則……、もっと、熱くしてくれ……」 「そう、そう言って俺の体に足を絡めて……」 「ああ、熱い……、泰則──!!」 「千尋、千尋なのか……? どうしてこんな事に……」 「ああ…、分からない……、どうやら俺は、もう生きてないみたいで……」 「そんな! 千尋!! 俺を置いてそんな!!」  泰則が激しく突き上げる。 「ああ、泰則。俺は、俺は、あ、あい、ああ──」  イッてしまった。  泰則に言えなかった言葉を抱いて、体がホワリと女から離れる……。 「千尋!! 千尋──!!!」  泰則が女の肩を持って揺さぶる。女は気が付いて柳眉を逆立てた。 「あなた、まだそんな名前を!!」  泰則はガックリ来て女を離した。女は自分が裸で、泰則のソファベッドにいることに驚いた。 「きゃあ──!! 私、どうして──!?」  ガックリきている泰則を置いて、ガウンを羽織り廊下に飛び出した。バタバタバタ……と、女の足音が遠ざかる。俺は泰則の側にいた。体がホンワリと暖かい。昇天できるかも……。 「まだここにいるのか、千尋!! 俺も連れて行ってくれ!! 千尋!!」  俺は泰則の悲痛な声に、引き止められてしまった。突き抜ける手で泰則の頭を抱きしめる。 「千尋……」  ああ、泰則……。  俺はここにいるよ……。  少しは感じてくれるかい……。
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