一話 寒がりな幽霊

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一話 寒がりな幽霊

 寒い……。  凄く寒い……。  寒くて暗い……。  ここは何処だ……!?  俺の体に何やら纏わり付くものは何だ!?  水か……!?  俺がその水を掻き分けると渦が巻いて、泡が湧き上がった。体が少しだけ浮き上がる。手でもっと水を掻いた。掻く度に体は少しずつ浮き上がって、やがて上の方に水面が見えてきた。  何度か水を掻いて、もう一掻きで水面に出る、そう思った俺の体は、しかし、水面を素通りして上空まで飛び上がってしまった。  あまりの事に呆然と今までいた場所を見る。広い湖のようだ。どうして俺はこんな所にいるのか……!?  びしょ濡れの体で考えたが思い出せない。  寒い……。  とても寒かった。  俺は暖かくなるものを思い出した。思い出すと矢も楯も溜まらず、それに向かって体が飛んでゆく。  小さな二階建てのアパートに着いた。屋根を素通りして部屋の中に飛び込んだ。  そこには俺を暖かくしてくれる奴、佐光泰則がいるはずだった。しかし部屋の中は様変わりしていた。俺と泰則が住んでいた頃とは……。  見慣れぬ家具に俺は呆然とした。ふと壁のカレンダーに目が行く。日付が随分進んでいるようだが。そう半年は……。  一体何があったんだ……!?  泰則はどうしたんだ!?  泰則に会いたかった。俺の恋人だった泰則に。  泰則!! 泰則っ!! やすのり──!!!  俺の体は天井を突き抜けて、空へ浮かび上がった。ぐるりと周りを見渡す。泰則の実家のある方に何か暖かい物があるような気がする。俺の体はふわりとその暖かい方に向かった。  寒いんだ泰則、早く暖めてくれ。  俺は空から泰則の実家に飛び降り、そのまま屋根を抜けて家の中に入った。泰則の匂いがする。  泰則は何処!? 早く暖めてよ!!  泰則の匂いの方に向かう。途中、泰則のお母さんに出くわした。しかし彼女は俺が目の前に居ても、気付きもしない。 「あら、こんなところに水が…。何か変な臭いがしない? 横田さんはちゃんと掃除しているのかしら」  家政婦の文句をぶつぶつとこぼしながら行ってしまった。  気を取り直して泰則を探した。ああ、あのドアの向こうにいる。ドアをすり抜けた。
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